はじめまして、フリーランスのビジネスライターをしている三浦健太郎です。
前職は障害者の就労移行支援事業所で6年間支援員をしていました。
その後、人材系メディアの編集部に移り、「働き方」と「ダイバーシティ経営」をテーマに取材と執筆を続けています。
支援員時代、利用者さんの就職先としてよく名前が挙がっていたのが「特例子会社」でした。
「配慮が手厚い」「仲間が多い」「安心して働ける」という声が多い一方、「そもそも特例子会社って何?」という質問も本当に多かった記憶があります。
2024年4月に法定雇用率が2.5%に引き上げられ、2026年7月にはさらに2.7%への引き上げが控えています。
障害者雇用に本腰を入れなければならない企業は確実に増えていて、「特例子会社を作るべきか」という相談も増えているようです。
この記事では、特例子会社の制度の仕組みから、認定要件、メリット・デメリット、そして実際に成功している企業の共通点まで、できるだけ分かりやすくまとめました。
企業の人事担当者だけでなく、就職先として特例子会社を検討している方にも参考になる内容になっていると思います。
目次
特例子会社の基本的な仕組み
制度の法的根拠と概要
特例子会社とは、障害者の雇用に特別な配慮をするために設立された子会社のことです。
法的な根拠は「障害者の雇用の促進等に関する法律」(障害者雇用促進法)の第44条にあります。
この制度の最大のポイントは、特例子会社で雇用した障害者を「親会社の雇用」としてカウントできるという点です。
つまり、親会社が直接障害者を雇用していなくても、特例子会社の雇用実績が親会社の法定雇用率の計算に含まれます。
通常、企業は自社内で障害者を雇用して法定雇用率を満たす必要があります。
しかし、製造業の生産ラインや、外回りが中心の営業部門など、業務の性質上、障害のある方が働くための環境整備が難しい職場もあります。
特例子会社を設立すれば、障害者に特化した業務設計と職場環境を一から構築できるため、親会社本体では難しかった雇用が実現しやすくなります。
グループ全体で見ると、特例子会社を含めた「グループ適用」という仕組みもあります。
親会社だけでなく、関係する子会社全体で障害者雇用率を合算できる制度で、グループ経営の中に障害者雇用を組み込みやすくなっています。
認定を受けるための5つの要件
特例子会社として認定されるには、厚生労働大臣の認可が必要です。
主な要件は以下の5つです。
- 雇用される障害者が5人以上で、全従業員に占める割合が20%以上であること
- 雇用する障害者のうち、重度身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合が30%以上であること
- 親会社との人的関係が密接であること(役員の派遣や従業員の出向など)
- 障害者の雇用管理を適正に行う能力があること
- 障害者の雇用促進と安定が確実に達成されると認められること
要件を見ると分かるとおり、「とりあえず子会社を作ればいい」というものではありません。
障害者が従業員の2割以上を占め、そのうち3割は重度の障害がある方という基準は、かなり本気で取り組まないとクリアできない数字です。
制度の詳細については、厚生労働省の障害者雇用に関するページで確認できます。
特例子会社の設置数は年々増えている
特例子会社の数は、ここ数年で着実に増加しています。
以下は直近の推移です。
| 年度(6月時点) | 特例子会社数 | 前年比 |
|---|---|---|
| 2022年(令和4年) | 579社 | — |
| 2023年(令和5年) | 598社 | +19社 |
| 2024年(令和6年) | 614社 | +16社 |
| 2025年(令和7年) | 631社 | +17社 |
2025年6月時点で、特例子会社で働く障害者の数は約53,700人に達しています。
2014年と比較すると、特例子会社の数は約1.6倍、雇用者数は約2.4倍に増えました。
特に精神障害者の雇用が大きく伸びており、約8.5倍という増加率です。
背景には、法定雇用率の段階的な引き上げがあります。
2024年4月に2.5%へ引き上げられ、2026年7月にはさらに2.7%に達する予定です。
対象となる企業の範囲も広がり、従業員37.5人以上の事業主が義務を負うことになります。
雇用率を達成できない企業は「障害者雇用納付金」として不足1人あたり月額5万円を徴収されるため、コストの面からも特例子会社の設立を選択肢に入れる企業が増えています。
特例子会社で多い事業内容
特例子会社がどんな仕事をしているのか、気になる方も多いと思います。
全国の特例子会社で最も多い事業内容は清掃・ビルメンテナンスで、全体の約25%を占めています。
次いで印刷関連、食料品製造、事務・データ入力などが続きます。
ただし、近年はIT系の業務や、専門性の高い技術系の業務を手がける特例子会社も増えてきました。
GISデータの構築、ソフトウェア開発、Webコンテンツの制作など、「障害者雇用=軽作業」というイメージとはかなり異なる事業を展開している会社も少なくありません。
特例子会社のメリットとデメリット
企業にとってのメリット
- 子会社の障害者雇用を親会社の実雇用率に算定できる
- 就業規則や給与制度を障害者の特性に合わせて柔軟に設計できる
- 障害者に配慮した職場として応募が集まりやすく、定着率も高まりやすい
- 各種助成金や税制優遇を活用できる
企業にとってのデメリット
一方で、課題もあります。
特例子会社は独立採算で経営することが求められるため、事業として成り立つ仕組みを作る必要があります。
親会社からのサポート業務だけに頼っていると、親会社の業績に連動して仕事が減るリスクもあります。
「設立したはいいが、仕事がない」という状態は障害者の雇用安定にも悪影響です。
障害のある方にとってのメリット・デメリット
障害のある方の視点では、特例子会社は「障害への理解がある職場」という安心感が大きなメリットです。
同じ立場の仲間が多く、時差出勤や短時間勤務といった柔軟な働き方が整っていることも多い。
一方で、担当する業務が限定的になりやすいという声もあります。
キャリアアップの道筋が見えにくいと感じる方もいるのが現実です。
ただ、これは特例子会社の「制度の問題」というより、各企業の運営次第で大きく変わる部分でもあります。
実際に、独自の事業領域を持ち、障害者が専門スキルを磨ける環境を作っている特例子会社も少なくありません。
成功している特例子会社に共通する5つのポイント
元支援員として多くの特例子会社を見てきた経験と、ライターとして取材してきた情報を合わせると、うまくいっている企業にはいくつかの共通点があります。
1. 業務プロセスをユニバーサルに設計している
成功している特例子会社は、複雑な業務工程を分解し、誰でも取り組めるシンプルなプロセスに再設計しています。
これは「簡単な作業だけやらせる」という意味ではありません。
高度な業務の中から、特定の工程を切り出して標準化するという発想です。
たとえば、データ入力の業務であれば、入力ルールをマニュアル化し、チェック工程を別の担当者が受け持つ形にする。
一人に全工程を任せるのではなく、各自の得意な領域で力を発揮できるようにプロセスを分けています。
結果として、品質管理もしやすくなるという副次的なメリットも生まれます。
2. 地域や教育機関との連携が強い
特別支援学校との実習受け入れ、就労支援機関との日常的な情報交換、ハローワークとの連携。
こうした外部ネットワークを持っている会社は、採用の質も定着率も高い傾向にあります。
支援員時代に感じていたのは、「実習の受け入れに積極的な会社」は入社後のミスマッチが少ないということです。
実習を通じてお互いの理解を深めてから採用に進むので、「思っていた仕事と違った」という離職が起こりにくい。
JEED(高齢・障害・求職者雇用支援機構)の支援人材ネットワーク事業では、特例子会社の設立・運営に関する専門家への相談も無料で受けられるので、これから検討する企業は活用する価値があります。
3. 障害者の特性を活かした独自事業を持っている
親会社の下請け業務だけに依存せず、障害のある社員の特性を活かした独自の事業領域を確立している会社は強いです。
たとえば、株式会社T.D.Sの会社情報ページを見ると、同社はGISデータの構築や行政向けの管理台帳図作成を主力事業としながら、障害のある社員が企画段階から参加するバリアフリー調査やバリアフリーマップの制作にも取り組んでいます。
1985年に東京都初の第三セクター方式による「重度障害者雇用モデル企業」として設立され、従業員46名中32名が障害者という構成で40年近く事業を継続しているのは、この「独自事業」があるからこそです。
「障害があるからこの仕事」ではなく、「この人たちの視点だからこそ生まれる価値」を事業にしている。
ここが大きな分岐点だと感じています。
4. 定着支援が仕組みとして回っている
採用して終わりではなく、入社後の定着支援がシステムとして機能しているかどうかも重要です。
日常的なフォローアップ、メンター制度、段階的な業務習熟プログラムなど、属人的ではなく組織的に回っている会社は離職率が低い。
障害者雇用の3年以内離職率は約50%というデータもある中で、定着率の高さは明確な競争優位になります。
具体的に言えば、入社直後は業務量を抑えて少しずつ増やす「段階的ステップアップ」の仕組みがあるかどうか。
困ったときに相談できる窓口が明確になっているか。
体調に波がある方に対して、出勤時間や業務内容を調整できる柔軟性があるか。
こうした一つひとつの仕組みが、結果的に長期的な雇用の安定につながっています。
5. 親会社との距離感が適切
技術やノウハウは親会社と共有しつつ、組織としての自律性は保つ。
この距離感のバランスがとれている会社は、経営も安定しています。
親会社に依存しすぎると業績が連動してしまうし、逆に離れすぎるとグループとしてのメリットが薄れる。
この「ちょうどいい距離」を見つけている企業が、長く続いています。
「もにす認定」を取得する企業が増えている
最後に、近年注目されている「もにす認定」制度についても触れておきます。
「もにす」とは「共に進む(ともにすすむ)」という意味を込めた名称で、2020年4月にスタートした制度です。
常時雇用する労働者が300人以下の中小企業(特例子会社を含む)を対象に、障害者雇用の取り組みが優良と認められた事業主を厚生労働大臣が認定します。
2026年3月時点で、全国611の事業主が認定を受けています。
認定を受けると、認定マークを使用できるほか、厚生労働省のサイトに企業名が掲載されるなどのメリットがあります。
認定事業主の一覧は厚生労働省のもにす認定ページで確認できます。
特例子会社の設立を検討している企業にとっては、もにす認定の取得を一つの目標にするのも良い方法です。
認定の基準自体が、障害者雇用のベストプラクティスを体系的にまとめたものになっているので、認定を目指す過程で自然と雇用管理の質が上がっていきます。
まとめ
特例子会社は、障害者雇用促進法に基づいて設立される、障害者の雇用に特化した子会社です。
親会社の法定雇用率に算定できるという制度上のメリットがある一方、独立採算で事業を成り立たせる必要があり、「作れば解決」というものではありません。
成功している特例子会社を見ていくと、業務のユニバーサル設計、外部連携、独自事業の確立、定着支援の仕組み化、親会社との適切な距離感という共通点が見えてきます。
特に「障害者の特性を活かした独自事業を持っているかどうか」は、長期的な経営の安定と社員のモチベーション維持の両面で決定的に重要です。
法定雇用率の引き上げが続く中、特例子会社の設立を検討する企業はこれからも増えるでしょう。
制度の仕組みを正しく理解した上で、自社の事業特性に合った形を模索していただければと思います。




