「大手と個人サロン、どっちに就職したほうがいいですか」
この質問を、私はこれまで何百回と受けてきました。
エステティシャンとして現場に8年いて、そのあと美容業界専門の人材紹介会社でキャリアアドバイザーを6年やっていた橘早苗といいます。
面談で会った方は延べ1,200人ほど。
そのうち新卒・第二新卒の相談が、たぶん3割くらいを占めていました。
先に言っておくと、この質問に「大手です」「個人です」と即答できる人がいたら、その人はあなたのことを何も知らないまま答えています。
条件が違えば答えは変わります。
ただ、答えは変わっても、判断する順番は決まっています。
今日はその順番を、公的な統計と実際の求人票を使いながら書いていきます。
目次
その前に、この業界の平均値を見ておいてほしい
大手か個人かを考える前に、エステティシャンという仕事そのものの数字を押さえておきましょう。
ここを飛ばして規模の話だけすると、判断を間違えます。
厚生労働省が運営している職業情報提供サイト「job tag」に、エステティシャンの職業データがまとまっています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 就業者数 | 119,220人 |
| 賃金(年収) | 353.9万円 |
| 労働時間 | 168時間/月 |
| 平均年齢 | 37.9歳 |
| 有効求人倍率 | 1.39 |
| ハローワーク求人賃金(月額) | 24.9万円 |
賃金と労働時間は令和7年賃金構造基本統計調査、就業者数は令和2年国勢調査をもとにした数値です。
詳しくはjob tagのエステティシャンのページで確認できます。
ただしこのページには「統計データは、必ずしもその職業のみの統計データを表しているものではありません」という但し書きがついています。
だいたいの目安として読んでください。
同じページの「労働条件の特徴」に、こう書かれています。
- 昼の12時前後から夜9時、10時ごろまで営業する店が多い
- 利用者が集中する土日祝日はほとんど休めないため、平日を店の定休日にしていることが多い
- よりよい雇用条件を求めて他の店に移ったり、結婚や出産を機に退職するなど、入職・離職の出入りが多い傾向がある
- ほとんどが立ち仕事で、かなり手や腕を使うため、ある程度の体力が必要
国が公式に「出入りが多い傾向がある」と書いている職業です。
これは大手でも個人サロンでも変わりません。
数字だけ見れば、規模が大きいほうが人は辞めていない
では規模の話に入ります。
厚生労働省が2025年10月24日に公表した「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」に、事業所の規模別に3年以内の離職率をまとめた表があります。
これがおそらく、大手か個人かという問いに対して、国のデータで直接答えている唯一の資料です。
| 事業所規模 | 大学卒 | 高校卒 |
|---|---|---|
| 5人未満 | 57.5% | 63.2% |
| 5〜29人 | 52.0% | 54.6% |
| 30〜99人 | 41.9% | 45.2% |
| 100〜499人 | 33.9% | 36.7% |
| 500〜999人 | 31.5% | 29.9% |
| 1,000人以上 | 27.0% | 26.3% |
きれいに右肩下がりです。
大卒で見ると、5人未満の事業所は57.5%、1,000人以上は27.0%。
2倍以上の開きがあります。
個人サロンはたいてい5人未満です。
大手チェーンは1,000人以上か、それに近い規模になります。
さらに、産業別の数字も出ています。
エステサロンが分類される「生活関連サービス業、娯楽業」の3年以内離職率は、大卒で54.7%、高卒で61.5%。
全産業の平均が大卒33.8%、高卒37.9%ですから、かなり高いほうです。
産業別で見ると、宿泊業・飲食サービス業に次いで2番目でした。
数値の詳細は厚生労働省の報道発表資料に載っています。
ここで注意してほしいことがあります。
この表は全産業の数字であって、エステ業界だけを取り出したものではありません。
それに、規模が大きいと辞めにくいのか、辞めにくい人が大きい会社を選んでいるのか、この表からは分かりません。
私が紹介会社にいたときの実感で言うと、効いているのは「制度が先に用意されているかどうか」だと思っています。
産休の前例があるかないか。
店長になる道筋が文書になっているかいないか。
体調を崩したときに代わりに入れる人がいるかいないか。
大手が優しいわけではなく、人数が多いと、そういう仕組みを作らないと会社が回らないだけです。
辞めた人の理由を見ると、選び方が変わる
ここからが本題です。
リクルートのホットペッパービューティーアカデミーが、2025年12月26日に「美容サロンにおける新人定着・離職の実態調査」を公表しました。
15歳から39歳で、初めて就いた仕事が美容6職種のいずれかだった523人への調査です。
このうちエステティシャン87人が答えた「最初のサロンを辞めた理由」が、かなり示唆に富んでいました。
| 辞めた理由 | エステティシャン | 参考:美容師 |
|---|---|---|
| 人間関係が合わなかった | 31.0% | 27.8% |
| ノルマが厳しかった | 25.3% | 10.0% |
| 残業が多かった | 23.0% | 21.7% |
| 給与/収入が低かった、上がりにくかった | 21.8% | 22.8% |
| 勤務日数・時間の融通がききにくかった | 19.5% | 11.7% |
| 結婚・出産・育児のため | 18.4% | 15.6% |
| 教育・研修制度が整っていなかった | 5.7% | 10.6% |
(複数回答。エステティシャンn=87、美容師n=180)
最初に目に留まったのは「ノルマが厳しかった」25.3%です。
美容師が10.0%、ネイリストが11.4%ですから、エステだけ突出しています。
同じ調査の別の設問「最初のサロンで大変だと感じた点」でも、エステティシャンは「店販のノルマが厳しかった」が26.9%で、6職種のなかで最も高い数字でした。
もうひとつ。
「教育・研修制度が整っていなかった」は5.7%しかありません。
エステティシャンの回答項目のなかで、ほぼ最下位です。
つまり、こういうことになります。
新卒の方が大手を選ぶとき、いちばんよく挙げる理由が「研修がしっかりしているから」です。
私も面談で何百回と聞きました。
でも実際に辞めた人のうち、研修不足を理由に挙げた人は20人に1人。
一方で、ノルマを理由に辞めた人は4人に1人います。
そしてノルマというのは、売上目標を数値で管理する仕組みがある会社ほど、はっきり存在します。
つまり大手のほうに寄っている要素です。
研修の手厚さで大手を選ぶと、研修という守ってくれる要素と引き換えに、ノルマという辞める理由のほうを引き受けることになる。
この構図に気づいていない学生さんが、本当に多い。
調査の全体像はホットペッパービューティーアカデミーの調査ページで公開されています。
大手と個人、実際のところ何が違うのか
現場の8年と、紹介会社の6年で見てきた範囲で整理します。
| 大手チェーン | 個人・小規模サロン | |
|---|---|---|
| 研修 | 入社後に体系的なカリキュラムがある。費用は会社負担が多い | オーナーの技術を横で見て覚える。教え方は人による |
| 給与 | 固定給が中心。手当と歩合が上に乗る | 基本給が低めで歩合の比率が高いことがある |
| 担当する範囲 | 施術が中心。集客や経理は本部がやる | 施術、受付、清掃、集客、発注まで全部 |
| 休日 | 月9〜10日のシフト制が標準的 | 店の定休日に準じる。オーナー次第で差が大きい |
| 異動 | 店舗異動や転勤の可能性がある | 基本的に1店舗のみ |
| 3年後 | 店長やマネージャーへの道筋がある | 経営を間近で学べる。独立には近い |
どちらが上という話ではありません。
5年後に自分の店を持ちたい人が大手に入ると、集客も原価計算も本部がやってくれるので、独立に必要な力が身につかないまま時間が過ぎます。
逆に、技術をきちんと習ってから考えたい人が個人サロンに入ると、教わる内容がオーナーの得意分野に偏ります。
求人票で確かめられること
面接で聞きにくいことも、求人票を読めば分かります。
私が学生さんに必ず見てもらう箇所は3つです。
ひとつ目は、固定残業代です。
「月給23万円」と書いてあっても、そのうち2万円が固定残業代のこともあります。
若者雇用促進法に基づく指針で、固定残業代を採用する場合は、それを除いた基本給の額、何時間分でいくらか、超過分を追加で払うことの3つを求人票に書くよう求められています。
この3つが書かれていない求人は、それだけで一段慎重に見ていいと思っています。
ふたつ目は、休日日数です。
月9日と月10日では、年間で12日違います。
3つ目が「就業場所・業務の変更の範囲」。
2024年4月から、労働条件の明示ルールが変わりました。
入社後に配置転換の可能性がある範囲を、書面で示すことが義務になっています。
厚生労働省の労働条件明示ルール改正のページにリーフレットが載っているので、内定をもらう前に一度目を通しておくといいです。
実例を挙げます。
たかの友梨ビューティクリニックを運営する不二ビューティの2027年卒向け募集要項を見ると、エステティシャン社員に地域社員と総合社員の2種類があって、地域社員は基本的に転居を伴う異動なし、総合社員は総合手当がつく代わりに転勤の可能性あり、と書き分けられています。
初任給は基本固定給185,000円から215,000円で、これとは別に固定残業代20,000円が12.14時間から14.10時間分として支給され、それを超えた分は1分単位で追加支給されると明記されています。
休日はサロン勤務で月9日から10日、基本的に土日祝は出勤。
変形労働時間制です。
この書き方は、大手チェーンの求人票としてかなり分かりやすい部類だと思います。
何時間分の固定残業代なのかを小数点まで書いている求人は、そんなに多くありません。
同時に、月9〜10日休みで土日祝出勤というのは、大手エステの標準的な条件でもあります。
個人サロンで「日曜定休」の店なら、日曜は確実に休めます。
どちらが自分に合うかという話です。
口コミは、点数より投稿日を見てください
最後に、口コミサイトの読み方を書いておきます。
ここは紹介会社時代にいちばん質問された部分でした。
同じ会社なのに、サイトによって数字がまったく違うことがあります。
たとえば不二ビューティの場合、OpenWorkに出ている平均残業時間は月22.6時間、有給消化率は41.7%、総合評価は3.14です。
一方、キャリコネに出ている同社の月平均残業は66.7時間。
3倍近い開きがあります。
どちらかが嘘をついているわけではありません。
数字のもとになっている人が違うだけです。
キャリコネの66.7時間は、投稿者25人分のデータから算出された数字です。
そこに並んでいる口コミを開くと、投稿日は2017年から2020年、書いた人が在籍していたのは2013年度前後のものが目立ちます。
一方のOpenWorkは175人が回答していて、2023年以降の投稿も含まれています。
10年前の職場と今の職場は、同じ会社でも別物になっていることがあります。
実際、キャリコネの2020年の投稿にも「昔に比べると少なくなった」と書いている元社員の方がいました。
だから点数より先に投稿日を見てください。
これは業界を問わず言えることです。
OpenWorkの場合、投稿できるのは正社員か契約社員として1年以上勤務した人だけで、1回の回答に500文字以上が必要です。
運営による審査もあります。
投稿のハードルが高いぶん、内容は具体的なことが多い。
ただし、平均点と個別の投稿は別々に見る必要があります。
たとえばたかの友梨で働いていた社員が投稿したクチコミページを開くと、新卒入社で3〜5年在籍したエステティシャンの方が総合4.5をつけていて、残業は月3時間、有給消化率は100%と回答しています。
これは2017年の投稿です。
会社全体の平均が3.14、残業22.6時間、有給41.7%ですから、平均よりかなり高い評価になっています。
つまり、同じ会社でも配属店舗や時期によってここまで差が出るということです。
1件の口コミで会社を判断しないでください。
逆に、平均点だけを見て切り捨てるのも早い。
私が学生さんに勧めているのは、点数の高い投稿と低い投稿を1本ずつ読んで、書かれている職種と在籍年数と投稿年をメモすることです。
そのうえで、面接で「配属される可能性のある店舗は何店舗ありますか」「その店の人数は何人ですか」と聞く。
口コミで気になったことは、たいてい面接で確認できます。
まとめ
長くなったので、判断の順番だけ置いておきます。
- 統計上、規模が大きいほど3年以内に辞める人は少ない(大卒で5人未満57.5%、1,000人以上27.0%)
- ただしエステが属する産業自体の離職率が高く、大手でも半数近くが3年で辞めている前提で考える
- 辞めた理由の上位は人間関係とノルマ。研修不足はほとんど理由になっていない
- だから「研修が手厚いから大手」という選び方は、実際のリスクを外している
- 求人票では固定残業代、休日日数、就業場所の変更の範囲の3つを必ず読む
- 口コミは点数より投稿日。1件で決めない
私自身は新卒で中規模のサロンに入って、そのあと大手に移りました。
最初から大手に行っていたら、たぶん3年もたなかったと思います。
人が多い場所が得意なタイプではなかったので。
自分がどっちのタイプかは、正直やってみないと分かりません。
だからこそ、入る前に確かめられることは全部確かめておいてください。
求人票と口コミと面接で、けっこうな部分は分かります。




