電気代高騰で住宅用蓄電池の相談が増えている理由と、売る側に必要な知識

こんにちは、転職ライターの三浦健司です。
社会人になってから6年間、太陽光発電と蓄電池の訪問営業をしていました。
その後は人材紹介会社に移り、営業職専門のキャリアアドバイザーを5年務めています。

最近、蓄電池業界にいる昔の同僚と話すと、決まって出てくる話題があります。
「お客さんのほうから蓄電池の話を振ってくるようになった」というものです。

私が現場にいたころの蓄電池は、まず必要性を説明するところから始める商材でした。
それがいまは「電気代、どうにかならないの?」と相談される側に回っているわけです。

この記事では、蓄電池の相談が増えている理由を公的なデータで整理します。
後半では、元営業の立場から「売る側が押さえておくべき知識」をまとめました。

蓄電池や太陽光の営業職に興味がある方に向けて書いていますが、導入を考えているご家庭にとっても、営業担当者を見極める材料になるはずです。

蓄電池の相談が増えている理由

相談が増えた背景は、電気代の上がり方、太陽光の売電制度、蓄電池の普及の3つに分けると見えやすくなります。

電気代の「上乗せ分」がじわじわ増えている

電気の請求書には、使った電気の料金とは別に「再生可能エネルギー発電促進賦課金」が上乗せされています。
太陽光などでつくられた電気を買い取る費用を、電気を使う全員で負担する仕組みです。

この単価がここ数年で大きく動きました。
東京電力エナジーパートナーが告知している単価(経済産業省が毎年度設定)を並べると、次のとおりです。

適用期間賦課金の単価(1kWhあたり・税込)
2023年5月分〜2024年4月分1.40円
2024年5月分〜2025年4月分3.49円
2025年5月分〜2026年4月分3.98円
2026年5月分〜2027年4月分4.18円

3年で約3倍です。
東京電力エナジーパートナーが2026年10月29日に発表した料金の目安では、従量電灯B・30Aで月260kWhを使う家庭の12月分の電気代が9,738円。
そのうち1,086円が賦課金です。

政府の電気・ガス料金の支援も、2026年夏は7月使用分から9月使用分までと期間を区切って実施されました。
支援がある月は請求額が下がりますが、終われば元に戻ります。
賦課金のように毎月確実にかかる上乗せ分は、支援のように途中で消えたりしません。

「節電しても請求額がなかなか下がらない」という感覚が、蓄電池の相談につながっていると私は見ています。

卒FITで「売るより使う」ほうが得になった

住宅用太陽光の余った電気は、国の制度で10年間、決まった価格で買い取ってもらえます。
国民生活センターの資料によると、2009年11月に始まった余剰電力買取制度の対象になった家庭から、2019年11月以降に順次この10年間が終わっています。
業界では「卒FIT」と呼ばれています。

卒FIT後の買取価格は、制度の期間中より大きく下がります。
たとえば東京電力エナジーパートナーの再エネ買取標準プランでは、満了後の買取単価は1kWhあたり8.50円(税込)です。

一方、家電の電気代の表示に使われる目安単価は、全国家庭電気製品公正取引協議会の基準で1kWhあたり31円(税込)。
昼に余った電気を8.50円で売り、夜に31円で買い直すと、1kWhごとに約22円の差が出ます。

だったら余った電気をためて、夜に自分で使えばいい。
この発想に行き着くのは自然な流れです。
私が営業をしていたころも、卒FITの時期が近いお宅ほど、話を最後まで聞いてもらえました。

蓄電池が「よく見かける設備」になった

一般社団法人日本電機工業会(JEMA)の蓄電システム自主統計(2025年度出荷実績)によると、系統連系型の定置用リチウムイオン蓄電システムの出荷は2025年度に153,645台でした。
累計では1,136,132台と、100万台を超えています。

1台あたりの平均容量も、2016年度の7.09kWhから2025年度は10.06kWhまで増えました。
なお、この統計は住宅用だけを数えたものではありません。
2025年度の台数は前年度比97%なので、出荷が急増しているというより、すでに身近な設備になったと読むほうが実態に近いと思います。

もう一つ、停電への備えという理由もあります。
経済産業省が公開している「定置用蓄電システム普及拡大検討会」のとりまとめ(2025年3月)でも、電気代の削減が主な目的としつつ、直近は災害対策で設置するケースが増えていると書かれています。

相談が増えるほど、トラブルも増えてきた

需要が伸びる商材には、強引な売り方をする事業者も集まってきます。

国民生活センターの注意喚起(2021年6月)によると、全国の消費生活センター等に寄せられた家庭用蓄電池の相談件数は次のように増えていました。

年度相談件数
2016年度325件
2017年度553件
2018年度926件
2019年度1,302件
2020年度1,314件

2016年4月から2021年4月までの相談を販売形態で分けると、訪問販売が3,456件で最も多く、電話勧誘販売の503件を大きく上回ります。

紹介されている事例には、「40年もち、30年目で元が取れる」と説明されて契約したものの、家族が聞いていた金額は150万円で、ローンの契約書では合計約250万円になっていた、というものがありました。
同じ資料では「売電より自家消費のほうが経済的に得とは限らない」とも注意しています。

先ほどの検討会の資料には、家庭用蓄電池は「訪問販売等による説得商材」で、消費者が自分で経済性を評価するのは難しい、という趣旨の記述もあります。

これは現場にいた私の実感とも重なります。
お客さんの手元には、ほかの製品と比べる材料がほとんどありません。
だから営業担当者の説明が、そのまま判断材料になってしまいます。

裏を返せば、正確な説明ができる営業担当者は、それだけでお客さんの信頼を得られるということです。
私が見てきた限り、長く数字を残している人ほど、契約を急がせない話し方をしていました。

売る側に必要な知識

ここからは、蓄電池を売る仕事に就くなら最低限知っておきたいことをまとめます。

「元が取れるか」を数字で正直に話せること

まず価格の相場です。
検討会の資料では、国の補助事業で導入された家庭用蓄電システムは2023年度の平均で1kWhあたり11.1万円、工事費は1.0万円でした。
補助事業を使わない場合は、工事費を除いて1kWhあたり15万〜20万円程度が標準的とされています。

そのうえで、ごく単純な試算をしてみます。

前提と計算数字
蓄電池の容量10kWh
毎日、昼の余剰電力を夜に回す量8kWh
1kWhあたりの差(31円−8.50円)22.50円
1年間の差額(8kWh×22.50円×365日)約6.6万円
導入費(12.1万円×10kWh)約121万円
単純な回収年数約18年

この計算には、充電と放電のロスや電池の劣化、天候による発電量の差は入れていません。
補助事業を使わない価格で計算すれば、回収年数はさらに延びます。

逆に、補助金を使えると話が変わります。
東京都の令和8年度の補助では、条件を満たすと1kWhあたり10万円(DR実証に参加しない場合は1戸120万円が上限)が出ます。
10kWhなら100万円で、自己負担の見え方はまったく違ってきます。

つまり「元が取れるか」は家庭ごと、地域ごとに答えが変わります。
私が後輩によく言っていたのは、「何年で元が取れます」と言い切らずに、前提条件と計算式をお客さんと一緒に確認しよう、ということでした。
停電への備えのように金額にしにくい価値は、節約効果と分けて説明するほうが誤解を生みません。

補助金の「いま」を把握していること

補助金は年度ごと、自治体ごとに中身が変わります。

国の家庭用蓄電池向け補助(令和7年度補正のDR家庭用蓄電池事業)は、予算に達したため2026年5月29日に公募を終了しました。
執行団体の環境共創イニシアチブは、再開の予定はないと告知しています。

去年の知識のまま「国の補助が使えます」と話せば、それだけで事実と違う説明になります。
徳島県は2023年5月、補助金の額について嘘の説明をするなどした家庭用蓄電池の訪問販売業者に、業務停止命令を出しました。

補助金の説明は、お客さんの判断を一番大きく左右する部分です。
営業担当者として、最新の公募状況を自分で確かめる習慣が欠かせません。

訪問販売のルール(特定商取引法)

訪問販売で蓄電池を売るなら、特定商取引法のルールは必ず頭に入れておく必要があります。
消費者庁の特定商取引法ガイド(訪問販売)にまとまっている主なルールは次のとおりです。

  • 勧誘の前に、会社名・勧誘の目的・商品の種類を伝える
  • 断られたら、その場でも後日でも勧誘を続けない
  • 契約のときは法律で決められた書面を渡す
  • 事実と違うことを言わない、大事なことを隠さない、威圧しない
  • 書面を受け取った日から8日間はクーリング・オフができる

クーリング・オフの対象には工事を伴う契約も含まれます。
工事が終わっていても、元の状態に戻す費用は事業者の負担です。
「工事したからもう取り消せません」という説明は通りません。

設置まわりの基礎知識(消防・電気工事)

営業担当者が自分で工事をするわけではありませんが、設置の条件はお客さんに聞かれます。

蓄電池の消防のルールは容量で区切られています。
仙台市消防局の案内では、10kWh以下は規制も届出も不要、10kWhを超えて20kWh以下は消防法令か標準規格への適合が必要、20kWhを超えると適合に加えて消防への届出も必要とされています。
細かい扱いは市町村の条例で決まるので、大きな容量を提案するときは管轄の消防本部に確認します。

住宅の配線工事には、電気工事士の資格が必要です。
提案の段階で、自社の施工担当がどこまで工事できるかを把握しておくと、説明に一貫性が出ます。

未経験からこの仕事を目指す人へ

キャリアアドバイザーとして多くの求職者と話してきましたが、蓄電池や省エネ機器の営業は、未経験からでも入りやすい仕事の一つです。

訪問先の多くは、すでに太陽光パネルを載せているお宅です。
電気代や売電の話に関心があるので、雑談から入りやすいのが特徴です。
アポイントを取る人、話を聞く人、契約をまとめる人を分ける「分業制」を取っている会社も少なくありません。

具体的なイメージをつかむなら、エスコシステムズの採用ページが参考になります。
太陽光パネルを設置済みのお宅を訪ねて省エネ機器を提案する営業を、アポイント取得・ヒアリング・契約の3分業で募集していて、営業職の約半数が未経験から入社したと書かれています。

どの会社を受けるにしても、面接では次のことを聞いてみてください。

  • 補助金や法律の知識を、研修でどのように教えているか
  • お客さんへの説明で禁止しているトークはあるか
  • インセンティブはどの段階の担当者に、どんな基準で出るか
  • 研修期間中の給与と、独り立ちまでの期間の目安

この4つにはっきり答えられる会社なら、誠実な売り方を大事にしていると判断しやすいです。

まとめ

蓄電池の相談が増えている背景には、再エネ賦課金の上昇で電気代が下がりにくくなったこと、卒FITで「売るより使う」ほうが得になったこと、停電への備えに関心が集まっていることがあります。

一方で、家庭用蓄電池は国の検討会が「説得商材」と書くほど、売る側の説明が購入の判断を左右する商品です。
だからこそ、経済性を数字で正直に示すこと、補助金の最新状況を追うこと、特定商取引法や消防のルールを守ることが、売る側に求められます。

私自身、6年間の営業で一番感謝されたのは、契約をすすめた日ではありません。
「うちには、まだ要らないと思いますよ」と伝えた日でした。
数字で本当のことを話せる営業担当者は、この業界でこれからもっと必要とされるはずです。